東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6840号 判決 1968年4月30日
A事件原告
由利光子
同
由利美保代
右法定代理人親権者母
由利光子
A事件原告、B事件被告
丸市運輸倉庫株式会社
右代表者
亀山憲三
B事件被告
丹羽正雄
右四名訴訟代理人
小室金之助
ほか二名
A事件被告、B事件原告
有限会社丸橋商会
右代表者
丸橋実
右訴訟代理人
塩田省吾
ほか一名
A事件被告、B事件被告
丸鹿運送株式会社
右代表者
岡川菊造
B事件被告
岡川菊造
右二名訴訟代理人
田沼義男
主文
一、A事件被告丸鹿運送株式会社は、同事件原告由利光子に対し一四三万九三一八円、同由利美保代に対し一一一万八六三五円、同丸市運輸倉庫株式会社に対し一三万円および右各金員に対する昭和四一年七月三〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、同事件原告らの同事件被告丸鹿運送株式会社に対するその余の請求および同事件被告有限会社丸橋商会に対する請求を棄却する。
三、B事件被告丸市運輸倉庫株式会社、同丸鹿運送株式会社、同岡川菊造は各自B事件原告有限会社丸橋商会に対し一一〇万〇二九二円およびうち七一万九五三八円に対する昭和四〇年一一月二〇日から、うち二八万〇七五四円に対する昭和四一年四月二一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四、同事件原告有限会社丸橋商会の同事件被告丸市運輸倉庫株式会社、同丸鹿運送株式会社、同岡川菊造に対するその余の請求および同事件被告丹羽正雄に対する請求を棄却する。
五、訴訟費用中、A事件原告らと同事件被告丸鹿運送株式会社との間に生じた分はこれを四分し、その一を同事件被告丸鹿運送株式会社の負担とし、その余を同事件原告らの負担とし、同事件原告らと同事件被告有限会社丸橋商会との間に生じた分は同事件原告らの負担とし、B事件原告と同事件被告丸市運輸倉庫株式会社、同丸鹿運送株式会社、同岡川菊造との間に生じた分は同被告らの負担とし、同事件原告と同事件被告丹羽正雄との間に生じた分は同原告の負担とする。
六、この判決は各事件の原告ら勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
A事件
第一 当事者の求める裁判
一、原告ら―「被告らは各自原告由利光子(以下原告光子という。)に対し五〇三万〇三六〇円およびうち三三四万七〇二七円に対する昭和四一年七月三〇日から、うち一三三万三三三三円に対する昭和四二年一二月一九日から、原告由利美保代(以下原告美保代という。)に対し六五八万八一五八円およびうち五〇七万一四九二円に対する昭和四一年七月三〇日から、うち一一六万六六六六円に対する昭和四二年一二月一九日から、原告丸市運輸倉庫株式会社(以下原告丸市という。)に対し六四万七六〇〇円およびこれに対する昭和四一年七月三〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言
二、被告ら―「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
第二 請求原因
一、(事故の発生)
昭和四〇年一一月二〇日午前二時一〇分頃、訴外由利博美(以下博美という。)は大型貨物自動車(品川一う五三二号、以下甲車という。)を運転して静岡県駿東郡原町一本松一〇一番二号先の国道一号線(以下本件道路という。)を浜松方面から東京方面に向けて道路左側部分(以下上り線といい、道路右側部分を下り線という。)を進行中、突如本件道路北側(甲車から見て左側)にあるドライブイン通称東海食堂の駐車場から発進して上り線内に進入してきた訴外宇賀神賢一(以下宇賀神という。)運転の大型貨物自動車(栃一い一三六三号、以下乙車という。)にその左側面を衝突され(第一事故)、その衝撃によつて右斜めに向きをかえ中央線を超えたため、下り線内に駐車中の訴外菅原征治(以下菅原という。)の運転していた大型貨物自動車(神一な九一一八号、以下丙車という。)に衝突し(第二事故)、以上二つの事故の競合に因つて甲車は大破し、また、博美は全身打撲傷等の重傷を負い翌二一日午前二時四〇分頃死亡するに至つた。
二、(被告有限会社丸橋商会(以下被告丸橋という。)の地位)
(一) 被告丸橋は当時丙車を自己のために運行の用に供する者であつた。
(二) 被告丸橋は菅原を運転手として使用する者であり、菅原は当時丙車を運転して被告丸橋の業務に従事し、東京方面から浜松方面に向けて下り線を進行してきたものであるが、同所は駐車禁止区域であり、かつ道路の幅員が一〇・六米しかなかつたから、駐車させるべきでないのにもかかわらず、丙車を下り線道路端にあえて駐車させた過失があり、これによつて第二事故が発生するに至つた。
三、(被告丸鹿運送株式会社(以下被告丸鹿という。)の地位)
(一) 被告丸鹿は当時乙車を自己のために運行の用に供する者であつた。
(二) 被告丸鹿は宇賀神を運転手として使用する者であり、宇賀神は当時乙車を運転して被告丸鹿の業務に従事し、前記駐車場を発進して東京方面に向おうとしていたものであるところ、このような場合には自動車運転者たるものは、道路に進入するに先き立ち、道路の左右(本件にあつては特に右方)の交通の有無を確かめ通行車輛のないことを確認したうえ道路に進入すべきであるのに、宇賀神は道路の安全を何ら確認することなく本件道路上り線内に進入した過失があり、この過失によつて第一事故を惹起させた。
四、(損害)
(一) 原告光子、同美保代の損害
1 博美の失つた得べかりし利益
博美は昭和一六年三月二六日生まれ(当時二四才)の健康な男子で、原告丸市に同四〇年一一月一日から運転手として就職し、その収入は一か月平均四万一〇八〇円程度であり、同人の生活費は一か月九〇〇〇円程度であつたので、これを差し引いた三万二〇八〇円が同人の一か月の純益となる。ところで本件事故に遇わなければ博美は六三才に達するまでの三九年間は運転手として稼働しえ、少なくとも右純益程度の収入は得続けたであろうのに、これをその死亡によつて失つたと考えられる。よつて右金額を基礎にしてその失つた三九年間の純収益につきホフマン式(複式)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して求めた死亡時における現価八二〇万五五八五円は博美の逸失利益としての損害額ということができる。
2 博美の慰藉料
博美は本件事故により受傷して多大の精神的苦痛を蒙つたのであり、その慰藉料としては一〇〇万円の支払を受けるのが相当である(死亡による慰藉料は主張しない。)
3 原告らの相続
原告光子は博美の妻、原告美保代はその子であるが、博美の死亡により同人の前記逸失利益および慰藉料の損害賠償請求権をそれぞれ相続分に応じ、相続により承継した。その結果原告らの取得額は原告光子につきその三分の一にあたる三〇六万八五二八円、同美保代につきその三分の二にあたる六一三万七〇五七円である。
4 原告らの慰藉料
本件事故により原告らはそれぞれ多大の精神的苦痛を蒙つたが、右苦痛に対する慰藉料としては原告光子につき二〇〇万円、同美保代につき一五〇万円が相当である。
5 原告光子の余儀なくされた出費
原告光子は本件事故により次のような支出を余儀なくされた。
(イ) 旅 費 三万一二三〇円
(ロ) 通信費(札幌からの電話代) 一一〇〇円
(ハ) 付添費(病院の付添婦に対するもの) 五〇〇円
(ニ) 仏具購入費 一二四〇円
(ホ) 入院必要品代 二二一〇円
(ヘ) 葬儀費用 一〇万円
合計 一三万六二八〇円
6 原告丸市の立替金
(イ) 旅 費 四万四二三〇円
(ロ) 通信費 三六一四円
(ハ) 入院費および関連費用 一万一一二二円
(ニ) 看護料 三〇〇〇円
(ホ) 火葬費 一万八六〇〇円
(ヘ) 宿泊代および食事代 一万四六二五円
(ト) 入院必要品代 二三一〇円
(チ) 写真代 一二〇〇円
合計 七万八七〇一円
原告丸市は右のとおり本件事故により原告らが支払うべき費用を原告らに代つて支払つたもので、原告らは各その相続分に応じて原告丸市に同額の債務を負担した。その額は原告光子につき二万六二三四円であり、同美保代につき五万二四六六円であり、これも、本件事故により原告らの蒙つた損害である。
7 保険金の受領と充当
博美の死亡により原告らは労働者災害補償保険金一七〇万二〇四七円と自動車損害賠償責任保険金一〇〇万円の合計二七〇万二〇四七円を受領したので、各相続分に応じてこれを配分すると、原告光子については九〇万〇六八二円、同美保代については一八〇万一三六五円となる。よつて原告光子の損害額は上記3、4、5、6の合計額五二三万一〇四一円から7を控除した四三三万〇三六〇円、同美保代の損害額は上記3、4、6の合計額七六八万九五二三円から7を控除した五八八万八一五八円となる。
8 弁護士費用
原告らは前記のとおり損害賠償請求権を有するものであるが、被告らがこれを任意に弁済しないので、原告らはやむをえず東京弁護士会所属弁護士小室金之助、同湯本岩夫、同山下寛に対し本訴の提起と追行とを委任し、昭和四一年五月二日それぞれ手数料として三五万円宛を同弁護士らに支払い、更に謝金として同額の債務を本判決言渡日を支払日として負つたので、原告らにとつて以上合計各七〇万円の弁護士費用も本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。
(二) 原告丸市の蒙つた損害
原告丸市は本件事故により次のような損害を蒙つた。
1 甲車の破損 三九万円
本件事故により原告丸市所有の甲車は大破して使用不能となつたので、原告丸市は事故当時の価格一〇四万円と同額の損害を蒙つたが、保険金六五万円を受領したので残損害は差額の三九万円である。
2 休 車 二〇万円
昭和四〇年一一月二〇日の事故当日から同年一二月一〇日までの二〇日間、原告丸市は甲車に代わる新車が手に入らなかつたため自動車を使用できずに日を過したことにより失つたうべかりし収益である。
3 甲車移動代 二万四六〇〇円
事故直後甲車を交通の妨害とならぬよう脇へ移動することを訴外大富運輸株式会社に依頼して支払つた、その移動作業に要したクレンの回送料七六〇〇円と右移動作業料一万七〇〇〇円の合計額である。
4 牽引代 三万三〇〇〇円
事故現場から埼玉県蕨市まで甲車の牽引を訴外八千代自動車株式会社に依頼し、同社に支払つた代金である。
合計 六四万七六〇〇円
五、(結論)
よつて被告ら各自に対し原告光子、同美保代は自動車損害賠償保障法第三条により、原告光子については以上合計五〇三万〇三六〇円およびうち博美本人の慰藉料の相続分、同原告固有の慰藉料の一部である一〇〇万円、未払の弁護士費用三五万円を除いた三三四万七〇二七円につき本件訴状送達の翌日である昭和四一年七月三〇日から、うち博美本人の慰藉料の相続分、同原告固有の慰藉料の一部の合計一三三万三三三三円につきその請求をした翌日の昭和四二年一二月一九日から、原告美保代については以上合計六五八万八一五八円およびうち博美本人の相続分、同原告固有の慰藉料の一部である五〇万円、未払の弁護士費用三五万円を除いた五〇七万一四九二円につき本件訴状送達の翌日である昭和四一年七月三〇日から、うち博美本人の慰藉料の相続分、同原告固有の慰藉料の一部の一一六万六六六六円につきその請求をした翌日の昭和四二年一二月一九日から、原告丸市は民法第七一五条第一項により以上合計六四万七六〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年七月三〇日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
第三 請求原因に対する被告らの答弁
一、請求原因第一項について
被告丸橋―原告ら主張の日時、場所において甲車と乙車とが衝突し、更に甲車と丙車とが衝突して博美が死亡したことは認める。ただし丙車が衝突時に駐車していたとのことは否認する。その余は不知。
被告丸鹿―原告ら主張の日時、場所において乙車が東海食堂の駐車場から発車し上り線に進入しようとしたとき、甲車と衝突したことおよび博美が死亡したことは認める。その余は否認する。
二、同第二項について、被告丸橋として
(一) 認める。
(二) 菅原に過失があつたとのことは否認し、その余は認める。
三、同第三項について、被告丸鹿として
(一) 認める。
(二) 宇賀神に過失があつたとのことは否認し、その余は認める。
四、同第四項について、被告らとして
保険金を原告光子、同美保代が受領したことは認める。その余はいずれも不知。
第四 被告らの抗弁
一、被告丸橋の抗弁
(一) 運転者菅原の無過失
事故直前菅原は丙車を運転して東京方面から浜松方面に向つて本件道路の下り線を進行中、約一〇〇米前方に対向して進行中の甲車が先行する乗用車(以下丁車という。)を追い越そうとして中央線を超えて下り線内に進入して接近してくるのを発見したが、下り線の幅員が約五米しかなく、甲、丙車のような大型トラックがすれ違うことは困難であると見て、丙車を下り線左側一杯に寄せて急停車させた上車外に飛び出した。その直後甲車は乙車と衝突し、その衝撃によつて右にカーブして前進し、さらに丙車に衝突したのであつて、菅原にはなんらの過失はない。
(二) 運行供用者被告丸橋の無過失
被告丸橋は丙車の運行に関し注意を怠らなかつた。
(三) 被害者博美および第三者宇賀神の過失
博美は丁車追越しのため甲車を時速七〇粁に加速し、中央線を超えて進行したため、丁車のかげから上り線内に進出してきた乙車の発見がおくれて甲車をこれに衝突させ、その勢で甲車を下り線内に暴走させてさらに丙車に衝突させたのであつて、違法追越しと前方不注視の過失がある。
宇賀神は東海食堂駐車場から上り線内に進入するに先き立ち、他の車輛の交通の有無を確認すべきであつたのに不注意にもこれを怠つたまま上り線内に進入したため乙車と甲車との衝突を招いたのであつて同人にも過失がある。
(四) 機能、構造上の無欠陥
丙車には機能の障害も構造上の欠陥もなかつた。
二、被告丸鹿の抗弁
(一) 運転者宇賀神の無過失
宇賀神は乙車を運転して東海食堂の駐車場から上り線内に進入するに先き立ち左右を見て上り線内の他の車輛の交通の有無を確認し、甲車が進行してくるのを発見したので一旦停車してその通過を待つていたところを甲車に衝突されたのであつて同人にはなんらの過失はない。
(二) 運行供用者被告丸鹿の無過失
被告丸鹿は乙車の運行に関し注意を怠らなかつた。
(三) 被害者博美の過失
博美は甲車を運転して丁車を時速八〇粁の速度で追い越しながら進行し、乙車が上り線に車体三分の一ほど入つて停車しているのに気付かず、または気付いたとしてもこれを避けることができずに甲車を乙車に衝突させたのであつて、同人には違法追越しと前方不注視の過失がある。
(四) 機能、構造上の無欠陥
乙車には機能の障害も構造上の欠陥もなかつた。
第五 抗弁に対する原告らの認否
いずれも否認する。
B事件
第一 当事者の求める裁判
一、原告―「被告らは各自原告に対し一二四万〇七五四円およびうち八六万円に対する昭和四〇年一一月二〇日から、うち二八万〇七五四円に対する昭和四一年四月二一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言
二、被告ら―「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二 請求原因
一、(事故の発生)
A事件において請求原因に対する答弁および抗弁として述べたとおり、昭和四〇年一一月二〇日午前二時一〇分頃、本件道路の上り線内において宇賀神の運転する乙車と博美の運転する甲車とが衝突し(第一事故)、その衝撃により甲車は中央線を超えて下り線内に暴走して丙車に衝突し(第二事故)、そのため丙車は大破させられた。
二、(博美、宇賀神の過失)
A事件の被告丸橋の抗弁中(三)をここに引用する。
三、(被告丸市の地位)
被告丸市は博美の使用者であるところ、博美は当時甲車を運転して被告丸市の業務に従事中であつた。
四、(被告丹羽正雄(以下被告丹羽という。)の地位)
被告丹羽は被告丸市の代表取締役であり、被告丸市に代つてその事業を監督する者であつた。
五、(被告丸鹿の地位)
被告丸鹿は宇賀神の使用者であるところ、宇賀神は当時乙車を運転して被告丸鹿の業務に従事中であつた。
六、(被告岡川菊造(以下被告岡川という。)の地位)
被告岡川は被告丸鹿の代表取締役であり、被告丸鹿に代つてその事業を監督する者であつた。
七、(損害)
原告は丙車を所有していたが、本件事故による大破によつて次のような損害を蒙つた。
(一) 丙車の損害
本件事故当時の丙車の時価は八六万円であつて、原告は同額の損害を蒙つた。
(二) 牽引代 六万五〇〇〇円
1 丙車を事故現場から訴外静甲いすゞ自動車株式会社営業所まで牽引した代金として、原告は昭和四〇年一二月三〇日二万円を支払つた。
2 丙車を前記静甲いすゞの沼津営業所構内で移動するため原告は代金七〇〇〇円を昭和四一年一月八日支払つた。
3 丙車を前記構内から訴外神奈川いすゞ自動車株式会社まで牽引した代金として、原告は三万八〇〇〇円を昭和四一年一月一三日支払つた。
(三) 積荷補償代 七万九五五四円
原告は昭和四〇年一一月初頃訴外株式会社ハマ回漕店から燐酸入ドラムかん二四本を横浜市から名古屋市まで運送することを請負い、丙車に積載して運送中本件事故にあつた。そのため右積荷中のドラムかん二本が破損したので、原告は右価格相当額七万九五五四円を補償のため、昭和四一年二月一五日と同年四月一五日とに同会社に支払つた。
(四) 代車料および積換料 三万六二〇〇円
丙車が運送不能となつたので、原告は自己所有の他の車を原告の営業所から事故現場まで回送し、同現場で積荷を積み換え名古屋市まで運送した。右に要した費用が三万六二〇〇円である。
(五) 弁護士費用
原告は被告らに対し右(一)ないし(五)の合計一〇四万〇七五四円の損害賠償請求権を有するところ、被告らがこれを任意に弁済しないので、原告はやむなく横浜弁護士会所属弁護士塩田省吾に対し本訴の提起と追行とを委任することを余儀なくされ、昭和四一年四月二一日一〇万円を支払うと同時に、原告勝訴の判決があつたときに更に一〇万円を支払うことを約した。以上合計二〇万円の弁護士費用も本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。
八、(結論)
よつて原告は被告丸市、同丸鹿に対し民法第七一五条第一項により、同丹羽、同岡川に対し同条第二項により以上合計一二四万〇七五四円およびうち丙車の価格相当額八六万円に対し事故発生日である昭和四〇年一一月二〇日から、うち丙車牽引代、積荷補償代、代車料および積換料、支払済の弁護士費用合計二八万〇七五四円に対する右弁護士費用支払日である昭和四一年四月二一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三 請求原因に対する被告らの答弁
一、請求原因第一項について
原告主張の日時、場所において乙車に衝突した甲車が中央線を超えて走行してさらに丙車に衝突したことは認める。その余は不知。
二、同第二項について
否認する。
三、同第三項について、被告丸市、同丹羽として
認める。
四、同第四項について、被告丹羽として
被告丹羽が同丸市の代表取締役であつたことは認める。その余は否認する。
五、同第五項について、被告丸鹿、同岡川として
認める。
六、同第六項について、被告岡川として
被告岡川が同丸鹿の代表取締役であつたことは認める。その余は否認する。
七、同第七項について
不知。
第四 被告丸市、同丹羽の抗弁
甲車と丙車と衝突した地点は道幅約一〇・五米に過ぎず、しかも駐車禁止区域であるのに、当時丙車運転者菅原はここに丙車を駐車させていた。そのため乙車と衝突してハンドルの自由を失つた甲車は暴走して丙車と衝突するに至つたものであつて、この第二事故は右の菅原の過失により発生したというべきである。
証拠関係(AB事件共通)<省略>
理由
第一本件事故の発生
一、昭和四〇年一一月二〇日午前二時一〇分頃、本件道路上り線を東進して来た甲車と、本件道路北側にあるドライブイン通称東海食堂の駐車場から発進して上り線内に進入して来た乙車とが衝突し(第一事故)、その衝突で甲車は右斜めに向きをかえさせられて、中央線をこえ、下り線内にあつた丙車と衝突して(第二事故)、甲車を運転していた博美が死亡したことは当事者間に争いがない。
二、両事件を通じての最大の争点は、第一事故と第二事故とがどのような経過を辿つて発生したかにあるのでまずこの点を認定し、然る後その余の判断に及ぶこととする。
<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。<証拠>中以上の認定に反する部分はこれを採用しない。
(一) 事故現場の状況
事故現場付近の本件道路は、東西に走る中央線表示のある幅員約一〇・四米のコンクリート舗装の直線路であり、北側にはドライブイス通称東海食堂があり、南側は松林となつている。付近には街燈もなく、事故発生時には雨が降つていて真暗であつた。又丙車の停止していた地点が駐車禁止地域であつたことは当該当事者間に争いがない。
(二) 甲車の状況
事故直前博美は甲車を運転して浜松方面から東京方面に向い上り線を東進し、東海食堂から約一〇〇米西方の地点あたりで先行する丁車を追い越すべく、丁車の右側方を時速約六〇ないし七〇粁の速度で中央線を跨いで進行したのであるが、折から東海食堂南方の上り線(道路全幅員の半分として幅約五・二米)内北側端から約二・八米の地点まで進入して停車し甲車の通過を待つていた乙車に気づいたか否かは不明であるが、これを避けることができず、その右前部に甲車の左前部を衝突させ、ついでその衝撃で甲車の先端は右斜めに旋回してなおも前進したため甲車はたまたま下り線の道路端に停つていた丙車の右前部に衝突した。そのため甲車は大破し、また博美は全身打撲骨折を蒙り、出血による外傷性ショックにより翌二一日午前二時四〇分頃死亡するに至つた。なお現場付近には甲車がブレーキをかけたと思われるようなスリップ痕は見あたらなかつた。
(三) 乙車の状況
事故直前乙車は前記食堂の駐車場に駐車していたが、宇賀神が運転席に、訴外柿沼公治(以下柿沼という。)が左側助手席に乗り込み、東京方面に向かうため発進した。そして宇賀神は駐車場南端から左にハンドルを切りつつ前照灯を減光したまま上り線に進入したのであるが右駐車場内の本件道路側に大型トラックが駐車しており乙車の左後輪が右トラックの前部フエンダーに接触しそうであつたので宇賀神は乙車を一時停車させ、柿沼に左方の安全確認を命じた。ついで宇賀神は上り線右方に視線をやつて初めて右方から丁車が進行してきて停車するのとその右側(宇賀神から見れば左側)を甲車が前示状態で進行接近してくるのを発見した。しかし宇賀神は甲車は乙車の前面を安全に通過しうるものと確信してそのままの体勢で甲車の通過を待つていたところへ甲車が衝突してきたのである。その衝突地点は上り線北端から二・七米であり、上り線の大体真中あたりであつた。衝突後その衝撃により乙車はひとりでに発進して斜めに本件道路を横切り南側の松林に後部を残して突入した。
(四) 丙車の状況
菅原は丙車を運転して東京方面から浜松方面に向い下り線を西進してきたが、事故直前前示状態で対向してくる丁車と甲車とを発見したので、丙車をそのまま直進させれば、甲車と衝突する危険があると判断し、丙車を左に寄せて東海食堂駐車場の出口から東方に約二二・四米の地点に丙車の前部がくるような位置に停車させた。そのとき甲車と乙車とが前示状態で衝突した音を聞き、甲車が丙車の方に走行してくると直感し、左側の扉から車外に飛び出した。その瞬間甲車が丙車の前部に激突した。この甲車と丙車との衝突により丙車は右前フエンダー、ボンネット、ラジエーターシエール等を破損された。
三、以上の認定に基づいて各運転者の過失関係を考えるのに、
(一) 甲車運転者博美の過失
博美は甲車を運転して時速六〇ないし七〇粁の高速で雨の降る暗い場所で丁車の追越しにかかり、前方不注視のためかそのまま進行し、上り線内に停車中の乙車に甲車を接触させてしまつたというのであるから、同人には状況に応じた適度の速度をこえた速度により運転をなし、しかも前方注視が不十分であつたという過失がある。
(二) 宇賀神の過失
宇賀神は乙車を運転して駐車場から上り線に進入するにあたり、上り線は交通頻繁な国道であるうえに、折柄の降雨のため相互に見とおしは悪く、さらに乙車の前照灯を減光していたので、警戒灯としての機能も十分ではなく、他方駐車場内の他の車両の交通の安全にも特別の配意をしなければならなかつたというのであるから乙車を上り線内に進入させるに先き立ち上り線を浜松方面から東京方面に進行する車両の有無を確認すべきであつたのにこれを怠つた過失があり、上り線内に進入して一旦停車した後初めて甲車に気付きそのため甲車の進行を妨げる結果となつた。
(三) 菅原の過失
菅原は丙車を運転してきて前認定のように一時停車させたに過ぎないのであるから、同人には何ら過失を認めることはできない。
(四) そして、博美と宇賀神との本件事故発生に対する過失の割合は大体五対五とみるのが相当である。
第二A事件について
一、(被告丸橋の責任)
被告丸橋が当時丙車を自己のために運行の用に供する者であつたことは当事者間に争いがない。そこで免責の抗弁について判断するに、本件事故の発生について丙車運転者菅原に過失がなく、被害者博美および第三者宇賀神に過失があつたことは前示のとおりである。さらに<証拠>によれば、被告丸橋は丙車の運行に関し注意を怠らなかつたことおよび丙車に機能の障害も構造上の欠陥もなかつたことが認められ、のみならず、そもそも事故発生の状況に関する前示の認定によれば、被告丸橋の過失の有無や丙車の機能の障害、構造上の欠陥の有無は事故の発生との間に何らの因果関係をも有しないことが明らかであるから、免責の判断をするにつきそれらの有無を論ずるまでもないというべきである。従つて免責の抗弁は理由があり、被告丸橋は自賠法第三条の責任を負わない。又菅原に過失がないのであるから被告丸橋はその余の判断に及ぶまでもなく民法第七一五条第一項の責任をも負担しない。
二、(被告丸鹿の責任)
(一) 被告丸鹿が当時乙車を自己のために運行の用に供する者であつたことは当事者間に争いがない。そして乙車運転者宇賀神には前示のとおり過失が認められるのでその余の判断に及ぶまでもなく免責の抗弁は理由がない。従つて被告丸鹿は原告光子、同美保代の後記人的損害について自賠法第三条の責任がある。
(二) 被告丸鹿が宇賀神の使用者であり、宇賀神が当時乙車を運転して被告丸鹿の業務に従事中であつたことは当事者間に争いがなく、宇賀神には過失が認められ、同被告が宇賀神の選任や乙車の運行の監督につき相当の注意をなしたことについては証明が十分でないので、同被告は原告丸市の後記物的損害について民法第七一五条第一項の責任がある。
三、(損害)
(二) 原告光子、同美保代の損害
1 博美の失つた得べかりし利益
<証拠>によると、博美は昭和一六年三月二六日生まれ(事故当時二四才)の健康な男子で、本件事故の日から一九日前の昭和四〇年一一月一日原告丸市に運転手として就職し、日給制で基本給として一五八〇円を得、他に残業手当等の収入を得ていたこと、原告丸市の社員の定年は五五才であり、原告丸市では五五才の定年まで運転手として勤務し続けることができることが認められる。従つて博美の一か月の収入は今後とも原告らの主張する四万一〇八〇円程度は保持されたであろうこと、そして博美は五五才に達するまでの三〇年間原告丸市あるいはその他の会社において運転手として勤務して少なくとも同程度の収入を得続けたであろうと推認される。ところで同人の一か月の生活費としては、原告らの自陳する九〇〇〇円を超えると認めるに足る証拠もないので同程度であつたと推認すると同人の一か月間の純収益は三万二〇八〇円となり、一か年三八万四九六〇円となる。そこで右金額を基礎にしてホフマン式(複式)計算法により年五分の中間利息を控除して三〇年間の純収益の死亡時の現価を求めると六九四万円(一万円未満切捨)となり、博美は同額の損害を蒙つたことになる。しかるに本件事故については前示のように被害者博美が過失があるのでこれを斟酌するときは、被告丸鹿に対し賠償を請求しうる損害は、そのうち三四五万円とするのを相当とする。
2 博美の慰藉料
原告らは、被害者博美が受傷してから死亡するまでの間に蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料請求権を取得し、これを原告らが相続した旨主張する。
しかし元来受傷後死亡までの間にその傷害による慰藉料請求権が、一旦被害者に発生すると考えるとしても、その権利は一身専属的性質を帯有すると認むべきであるから、たとえば被害者の請求に応じて被害者が慰藉料の支払を約した場合のように特別の事情の存する場合は別として被害者の死亡と同時にその相続人により承継されることなく消滅するのであつて、右のような特別事情の主張のない本件においては原告らの主張はそれ自体失当といわざるを得ない。
3 原告らの相続と保険金の受領および充当
<証拠>によれば、原告光子、同美保代は博美の妻、子であり、博美には他に子がないことが認められる。従つて相続により原告光子は前記逸失利益の損害三四五万円の三分の一にあたる一一五万円を、同美保代は三分の二にあたる二三〇万円をそれぞれ承継取得したと認められる。しかるに原告らが労災および自賠責保険金合計二七〇万二〇四七円を受領したことは当事者間に争いがないので、これを各相続分に応じて右損害に充当すると、残額は原告光子につき二四万九三一八円、同美保代につき四九万八六三五円となる。
4 原告らの慰藉料
本件事故により原告光子は夫を同美保代は父を失い多大の精神的苦痛を蒙つたと認められる。右各苦痛に対する慰藉料としては本件にあらわれた諸般の事情を考慮しなお前示博美の過失をも斟酌するときは原告光子につき一〇〇万円、同美保代につき五〇万円をもつて相当とする。
5 原告光子の支出した費用
<証拠>によれば、原告光子は本件事故により次のような支出をしていることが認められる。
(イ) 旅 費 三万一二三〇円
(ロ) 通信費(札幌からの電話代) 一一〇〇円
(ハ) 付添費(病院の付添婦に対するもの) 五〇〇円
(ニ) 仏具購入費 一二四〇円
(ホ) 葬儀費用 一〇万円
合 計 一三万四〇七〇円
入院必要品代についてはこれを認めるに足る証拠はない。以上のうち(イ)(ロ)については本件事故と相当因果関係にある損害ということできず(当時の原告光子の住所は東京であつて、たまたま北海道に旅行中であつたことが原告光子本人尋問によつて認められる。)、(ハ)から(ホ)までの合計一〇万一七四〇円の支出についてはいずれも本件事故と相当因果関係にある損害といえる。しかるに本件事故についての前示博美の過失を斟酌すると、被告丸鹿に対し賠償を請求しうる損害は、そのうち五万円とするのを相当とする。
6 原告丸市の立替金
<証拠>によれば、原告丸市は本件事故に関し原告ら主張どおり合計七万八七〇一円の支出をしたもので、その大部分は原告光子、同美保代のための立替払であることが認められるが、その費目中には、甲車の同乗者の入院費とか代替車およびレッカー車乗務員の食費とかその他内容の必ずしも明らかでないものを含んでいる。よつてそれらのうち、真に立替払の性質を有し原告光子、同美保代が原告丸市に対し償還すべきもので本件事故と相当因果関係にある損害というべきものは控え目に見積り六万円と認め、さらに本件事故についての前示博美の過失を斟酌すると、被告丸鹿に対し賠償を請求しうる損害は、そのうちの三万円と見るのを相当とする。これを相続分に応じて按分するときには原告光子につき一万円、同美保代につき二万円となる。
7 弁護士費用
以上により被告丸鹿に対し原告光子は右3ないし6の合計一三〇万九三一八円、同美保代は3、4、6の合計一〇一万八六三五円の損害賠償請求権を有するものというべきところ、被告丸鹿がこれを任意に弁済しないことは弁論の全趣旨により明からであり、<証拠>によれば、原告らは東京弁護士会所属弁護士小室金之助、同湯本岩夫、同山下寛に対し本訴の提起と追行とを委任し、本件訴状送達の翌日までにそれぞれ手数料として三五万円宛を同弁護士らに支払い、更に本判決言渡日を支払日としてそれぞれ謝金三五万円の債務を負うことになつたと認められるが、本件事案の難易、前記請求認容額その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すると、このうち本件事故に基づく原告らの損害として被告らに賠償させるべき金額は原告光子につき一三万円、同美保代につき一〇万円とするのを相当とする。
(二) 原告丸市の損害
1 甲車の破損
<証拠>によれば、甲車は本件事故により左右前フエンダー、右前バンパー、左右運転台左扉等が破損し運行不能となり、その破損に対する保険金六五万円を原告丸市が受領したことはその自陳するところであるから、当時の甲車の価格がすくなくとも保険金と同額であつたことは容易にこれを認めることができるけれども、その価格がそれ以上であることについては、証人中沢光夫の証言中の当該部分は採用し難く、他にこれを認めるに足る的確な証拠は存しない、よつてこの点に関する損害の主張は認められない。
2 休 車
<証拠>によれば、原告丸市は甲車が使用不能となつたので代替車を入れたが、その間約二〇日間を要したこと、甲車は事故前一か月に平均二五日使用され、いわゆる水揚額は一日平均一万八〇〇〇円程度で、右収益をあげるに要する諸経費は六〇〇〇円程度であり、一日平均の純収益は一万二〇〇〇円であつたことが認められる。そうすると代替車が使用可能となるまでの二〇日間のうち少なくとも一六日間の前示割合による純収益を原告丸市は失つたというべくその総額を求めると一九万二〇〇〇円となり、これは原告丸市の蒙つた損害ということができる。
3 甲車移動代
<証拠>によれば、原告丸市は事故現場片付けのための費用として二万四六〇〇円を支出したことが認められこれも原告丸市の損害ということができる。
4 牽引代
<証拠>によれば、原告丸市が甲車を事故現場から蕨市までの牽引させる代金として三万三〇〇〇円の支出をしたことが認められ、これも原告丸市の損害ということができる。
従つて原告丸市の損害の合計は二四万九六〇〇円となるが、本件事故についての前示博美の過失を斟酌すると、被告丸鹿に賠償を請求しうる損害は、そのうち一三万円とするのを相当とする。
第三B事件について
一、(被告丸市の責任)
被告丸市が博美の使用者であつたことおよび博美が当時甲車を運転して被告丸市の業務に従事中であつたことは当事者間に争いがないところ、博美には前段認定のとおり過失が認められるので、被告丸市には原告の後記損害について民法第七一五条第一項の責任がある。
二、(被告丹羽の責任)
被告丹羽が被告丸市の代表取締役であることは当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、被告丹羽は訴外亀山憲三とともに被告丸市創立当初から代表取締役に就任してはいたものの同人は八二才の老令で、病弱のため出勤も毎日ではなく、被告丸市の総務、経理を担当していたにすぎず、車の運行管理等いわゆる現業には何ら関与せず、むしろ訴外亀山憲三が車両の運行管理を含む営業全般を統轄し、被告丸市の被用運転者の選任、監督を担当していたことが認められる。右事実によれば、すくなくとも本件事故に関していえば被告丹羽を被告丸市に代つてその事業を監督する者ということはできない。従つて被告丹羽には責任はない。
三、(被告丸鹿の責任)
すでに前に認定したように、被告丸鹿の被用者の宇賀神が同被告の業務に従事中その過失によつて甲車と乙車との衝突を惹起させ、その結果さらに甲車と丙車との衝突を惹起したものであるから、同被告は民法第七一五条第一項により第二事故による原告の後記損害を賠償する責任がある。
四、(被告岡川の責任)
<証拠>および弁論の全趣旨によれば被告丸鹿は昭和二五、六年頃設立された運送会社であつて、本件事故発生当時頃は、資本金一四〇万円、取締役五名、保有車両八台、従業員約二五名(うち事務関係相当者四名)を擁し、車両の運行および運転に対する指揮監督上の組織としては、配車係、整備管理者、運行管理者の役職を設け、これらを支配人菅沼が指揮する体裁であつたものの、同人は取締役ではなく、また他の取締役は名古屋市に本店を有する通称名鉄運輸の役員もしくは支店長らが兼任する非常勤役員であつたため、被告岡川の被告丸鹿への出勤度数は、数社の役員を兼常していた関係上、一か月に一、二度であつたが、被告岡川が専ら会社の最高方針を決定しうる地位にあり、直接右菅沼に指示して、車両の運行および運転者に対する指揮監督をなしていたことが認められる。この事実によれば被告岡川は、被告丸鹿の事業の執行の代理監督者として、民法第七一五条第二項により原告の後記損害を賠償する責任がある。
五、(損害)
(一) 丙車の破損
<証拠>によれば、本件事故により丙車は右前フエンダー、ボンネット、ラジエーターシュール、前バンパー、運転台等が破損し、修理不能となつて廃車のやむなきに至つたこと、原告は丙車を昭和三九年一月一六日一七二万四〇〇〇円で買い受け、事故前の丙車の帳簿上の価格が七五万九五三八円であつたこと、事故後三、四か月後の神奈川県査定事務所の査定によれば、丙車の引取価格は四万円程度であつたことが認められる。右事実によれば丙車の事故前の時価も帳簿価格と同程度であつたと推認される(被告丸市代表者兼被告本人亀山憲三尋問の結果中右認定に反する部分はこれを採用せず、真正に成立したと認められる甲第三三号証も右認定を左右しない。)。そうすると丙車破損による損害は時価から残存価格四万円を差し引いた七一万九五三八円となる。
(二) 牽引代
<証拠>によれば、原告は丙車の牽引代として昭和四一年一月三一日までに総額六万五〇〇〇円を支払つていることが認められ、これも本件事故による損害といえる。
(三) 積荷補償費
<証拠>によれば、丙車が当時積載していた二四本の燐酸入ドラムかんのうち、本件事故により二本を破損し、右補償として七万九五五四円を依頼主の訴外株式会社ハマ回漕店に昭和四一年四月一五日までに支払つたことが認められる。右損害も本件事故に基づく損害といえる。
(四) 代車料および積換料
<証拠>によれば、原告は丙車の代車料および丙車の積荷積換料として三万六二〇〇円の費用を要したことが認められる。右費用も本件事故に基づく損害といえる。従つて原告の損害の合計は九〇万〇二九二円となる。
(五) 弁護士費用
以上により被告丸市、同丸鹿、同岡川ら各自に対し被告丸橋は九〇万〇二九二円の損害賠償請求権を有するものというべきところ、被告らがこれを任意に弁済しないことは弁論の全趣旨により明らかであり、<証拠>によれば、原告は横浜弁護士会所属弁護士塩田省吾に対し本訴の提起と追行とを委任し、昭和四一年四月二一日一〇万円を支払うと同時に、更に本判決言渡日を支払日として謝金一〇万円の債務を負うことになつたと認められ、本件事案の難易、前記請求認容額その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すると、その全部が本件事故に基づく原告の損害として被告らに賠償させるべき金額と認めるのを相当とする。
六、(被告らの抗弁)
菅原には本件事故について何らの過失もないので被告らの抗弁は理由がない。
第四結 論
以上を総合すると、
A事件原告らの請求については、被告丸鹿に対する原告光子の請求中一四三万九三一八円、同美保代の請求中一一一万八六三五円、同丸市の請求中一三万円および右各金員に対するA事件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年七月三〇日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告丸橋に対する請求は全部理由がないからこれを棄却し、
B事件原告の請求については、被告丸市、同丸鹿、同岡川に対する請求中一一〇万〇二九二円およびうち丙車破損代七一万九五三八円に対する事故発生日である昭和四〇年一一月二〇日から、その余のうち未払弁護士報酬相当額を除く二八万〇七五四円に対する損害発生後である昭和四一年四月二一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由あるがからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告丹羽に対する請求は全部理由がないからこれを棄却し、
訴訟費用については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。(吉岡 進 薦田茂正 原田和徳)